82人が本棚に入れています
本棚に追加
/177ページ
去っていこうとする遠山と成島、棒立ちの仁羽、三人を見つめて立ち尽くしている俺。仁羽は変わらず険しい顔で突っ立っていて、二人はそんな仁羽の横を通り過ぎようとした。
だけど、それは出来なかった。すれ違いざま、仁羽に制服のすそをつかまれたから。
後ろから力をかけられて倒れそうになりつつ、二人は振り返った。何が起こったのかは理解してるけど、行動の意味は理解してない顔だ。
「……仁羽、どうしたの?」
成島が何となく戸惑った調子で尋ねる。仁羽はいいから、と答えるだけだった。すそを離して、別に外に行かなくていいから、ここにいればいいから、と。
「……」
その言葉に、トイレの中にはしばらくの間複雑な沈黙が流れる。言葉の意味を理解し、念のためもう一回分析し直し、それでも結果が変わらないことを悟り、真っ先に声をあげたのは成島だ。
「……ええ? 仁羽、ちょっともしかして……ええ!?」
遠山は声こそ出さなかったものの、いつもの眠りかけた顔は消えていた。目を見開いて仁羽を見る。そして仁羽はといえば垂直に下を向いていた。つむじが見える。耳が赤い。
それらを眺めていた俺の唇は、ほとんど無意識で笑みの形になっていた。一瞬後自覚して、慌てて口元をかくしたけど遅かった。
最初のコメントを投稿しよう!