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俺の言葉に、仁羽は顔をしかめた。ものすごく苦々しげな顔だった。吐き捨てるように、忌々しいものを見る顔でつぶやく。
「園田……気づいてたのか」
「ん、途中からだけど」
言うと舌打ちされた。今すぐ俺の記憶を消去したい、という顔をしている。
そんなに知られたくなかったのか。悪いことしたかな、と思ったけど今さらどうにもできないし、せめてちゃんと言おうと思う。
「仁羽って、怖いもの何にもなさそうな感じだったからさ。そうじゃないんだって、弱い所もあるんだってわかったらほっとしたっていうか」
だって、怖いものなんて何もない、みたいな仁羽なのだ。
世の中みんな自分の思い通りに出来そうで、怯えたりビビったりすることなんてどこにも存在しないような仁羽だって、怖いものがあるっていうなら。だから一生懸命、頑張って、戦っているなら。
「――傍から見たら何でもない努力かもしれないけどさ。すげえ小さいことで特別なことじゃないかもしれないけど、確かに頑張って、戦ってるならさ」
いつだって理路整然として偉そうで、俺たちとは全然違うみたいな顔をしてる仁羽だけど、そうじゃなかった。当たり前だけど忘れてしまいそうになることを、確かに目にした。同じなんだって、俺とだって大して変わらないんだって、わかった。だから。
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