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「……戸川美保も、お前のこと知ってたらさぞかし喜ぶだろうよ……」
うんざりとした顔で仁羽が言ったら、そうかな! と弾んだ声で成島が言った。そりゃあここまで好かれて嫌にはならないだろう。
「いつか会いに来てくれるんじゃねえの」
鼻で笑った。それだけ言ってりゃいつか通じるだろ、と皮肉交じりの言葉だった。だけど、成島はそうだったらいいな、と笑った。
晴れやかに、澄み切った笑顔で。ファン特有の熱っぽい声じゃなくて、静かにゆっくりと、落ち着いた声で言った。
「……そうだったら、いいな」
ね、メノウ様、と手の中のうさぎに問いかけた。うさぎがこくこくうなずく。
「それだったら僕、どれだけ嬉しいかわかんないよ」
言って、成島は笑ったはずだった。目じりをさげて、唇がやわらかに引き上げられている。それなのに、その顔が笑顔に見えない。
月の光に照らされていた、横顔みたいだった。胸元であみぐるみを握りしめている様子が祈るみたいだ。まるで何かに、すがるみたいだ。
「……成島」
ゆっくりとした沈黙が流れてから、仁羽がつぶやいた。落ち着いた声だ。威圧的でも偉そうでも、なかった。
「お前にとって戸川美保って何なんだ?」
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