第3章 : 置いてきぼりグローリー

2/26

82人が本棚に入れています
本棚に追加
/177ページ
 図書室の真下、廊下の一番奥にある美術室には、当然鍵がかかっていた。どうするのかと思ったら、成島は美術準備室の下にある小さい窓から中へ入り、鍵を開けてくれる。  準備室に入ると、真正面に大きな窓があった。  手前にカンバスでもあるのか、白い布がかかっていて下半分を隠しているけど、光が薄ら入ってくる。おかげで、ぼんやりと様子が浮かび上がる。  左手に美術室へつながる扉があり、右手の壁には天井まで届く棚があった。作りかけの粘土細工だとか、丸められた画用紙、絵とかスケッチブックとか本とかが置いてある。棚の前には長机が置いてあるので、下はよく見えなかった。  それ以外にも、鉛筆のデッサンとか、色塗り途中の油絵とかが壁に立てかけられていて、アトリエって感じだ。  成島が準備室と美術室をつなぐ扉を開いた。閉め切られていた所為か、空気が淀んでいてむっとする。  美術室は高い棚がないので、図書室よりはマシだけれど、暗闇に沈むようなのは変わらない。部屋の隅には暗がりが溜まっていてよく見えなかった。  遠くから届く風と虫の声とお囃子をぼんやり聞きつつ部屋を見る。すると、周囲を照らしていた懐中電灯の輪が、すうっと移動した。追っていくと、俺の後ろで光が停止する。 「……生きてる……?」  懐中電灯を操っていた遠山が聞いた。丸い光の中では、青白い顔をした仁羽がほほえんでいた。変な汗を浮かべつつ。 「はやくしろよ、成島……」  細い声で言われて、成島は慌てて教室の一番後ろにある棚へ走っていく。どうやらあそこが美術部員の物置らしい。俺と遠山は、体ごと仁羽に向き直った。 「俺はこんな心霊スポット、さっさと出たいんだよ……!」  聞いてもいないのに、仁羽がしゃべる。門限的にもマズイし、早く帰りたいのは俺もだけど……どうやら仁羽は、しゃべることで気を紛らわせているらしい。 「……美術室って心霊スポットだっけ?」
/177ページ

最初のコメントを投稿しよう!

82人が本棚に入れています
本棚に追加