第3章 : 置いてきぼりグローリー

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 聞いてみると、仁羽は強い目でこっちを見た。むしむしはしてるけど、汗だくになるほどじゃない。それでも仁羽はこめかみに薄ら汗を浮かべて、「美術室には大体あるだろ。禍々しく笑ってる女の絵が……!」と吐き捨てる。  遠山と俺が何のことだ、とハテナマークを撒き散らすと苛立った声で先を続ける。 「レオナルド・ダ・ヴィンチが描いた、名画とか言われてるヤツだよ……!」 「あーはいはい、モナ……痛っ」  名前を言い切る前に、仁羽に殴られた。目の前の顔は、ほのかな光しかなくてもよくわかった。目が完全に据わっている。 「その名前を、口にするな」  呼んだら来るだろ、とか言うから、仁羽は一体あの絵を何だと思ってるんだ、と聞きたかった。犬か。 「あの絵には不気味な力が宿っていてもおかしくない。動いて危害くわえるなんて朝飯前なんだよ……! 美術室に忘れ物を取りに行ったらあの絵があって、不気味な笑顔で襲いかかって来て異界に取り込まれて行方不明になったり、喰われたりして次の日あの女が血まみれで笑ってるなんて話、ざらにあるんだからな」  本気で言っているのがよくわかるくらい、響きが真剣だ。  一体仁羽はどんな思考回路してんだ……頭いいキャラなんだから全ては科学で片付ければいいのに……としみじみしていたら、遠山がつぶやく。 「……聞いたことない……」 「探せばいくらでもあるんだよ」  即答された言葉に、探さなきゃいいのに、と思った。だけど何でも徹底してしまうのが仁羽なのかもしれない。苦労しそうな性格だよな……と思っていたら、遠山が動いた。  ふらふらと歩き出し、美術室を横切る。どうしたのか、と俺もあとについていく。仁羽は一人にはなりたくないのか、渋々くっついてきた。 「……開かないね……」  遠山は美術室のドアを内側から開けようとしたらしい。懐中電灯の光の中には、つるりとしたつまみ。上の図書室と同じように、外鍵しかついていないのだろう。変な構造だ。 「……なんで、内側から開かないんだろうね……」  特別不思議にも思っていない口調で、遠山がつぶやく。仁羽は、外へ出られる出入り口から離れてしまったことが落ち着かないのか、そわそわしている。 「こっちの東側校舎は昔からあるし、別の使い方してたのかも?」 「ああ……誰か閉じ込めておいたとかね……」
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