第3章 : 置いてきぼりグローリー

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 ここからはわからないけど、遠山の位置からは月がちゃんと見えるようだ。詩的な言葉なのに、なぜだろう。遠山が言うとそんな風に聞こえない。 「……満月? よかったよなー、月明るくて。真っ暗だったら仁羽じゃなくても発狂しそう」  あはは、となるべく明るい声で言う。遠山はうっすらと笑みのようなものを浮かべて、「満月ではないけど……明るいね……」と言いながら俺の前に到着。  こんな月の夜はね、と言う顔がいつもと違ってとてもはっきりして見えた。 「月のきれいな夜は……水上神社の鏡池から……自分とよく似た河童が、出てくるんだよね……」  淡々とした物言いなのに、声はしっかりと届く。淀みない口調で、先を続ける。隣で仁羽が固まっている気配がする。 「鏡池は……河童の世界との入口らしいよ……」  何でもない口調だ。至って当たり前の事実を口にしているみたいだ。唾を飲み込んだら、思ったより大きな音がした。 「だからね……鏡池に落ちた死体は……絶対上がらないんだって……」  なぜなら、それは死んだのではなく、河童の世界で暮らしているから……。のっぺりした顔つきのまま、表情の読めない声でつぶやく。 「今夜も……いい月夜だから……鏡池からは……河童が遊びに来てるんじゃない……」
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