第3章 : 置いてきぼりグローリー

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 机の下の影が、動いたように見えた。見間違いかと思って目をこすったら何も変わってないみたいで、やっぱり間違いかと思った。  でも、また音がした。ごとん、と何かがぶつかるような。間違いようもなくはっきりと、机の下から音がする。  唾を呑み込んで音の発生源を見たら、ふっと小さな影が動く。小さな子どものような、影が、机の下で動いている。 「――っ」  ぎく、と筋肉が強張った。影が立ち上がろうとしたその瞬間、白い布がばさり、と落ちた。窓は閉め切られているのに、風に乗って落ちるようにゆったりと白い布が舞う。  スローモーションのようにゆっくりと、滑り落ちていく白い布。その向こうに現れる、影。 (こんな月の夜は)  遠山の声がよみがえる。 (自分とよく似た)  目の前に現れる、影。俺たちしかいないのに。 (鏡池から)  現れるわけがない、俺たち以外の影が現れた、瞬間。 (河童が、出てくるんだよね……)  自分によく似た別の生物が、にいっと嗤った気がした。  全身の毛が逆立つ。何が起きているのか理解出来なかった。だけど、まばたきのあと。  どおおおおおおおおおんっっ!  突然、空気を震わすような轟音が響く。それが合図だった。 「ぎゃあああああああああっっ!!」  叫び声と走り出した影につられて、足が勝手に床を蹴り、全速力で駆け出した。  周りのことはすっかり抜け落ちていた。誰かが何かを言ったのかもしれないし、音がしていたのかもしれないけど聞こえない。外の音は消えてしまう。  きちんと音が戻ってきたのは、美術室からだいぶ離れた廊下で、呼吸をととのえている時だ。自分の息の音がうるさい。高く虫が鳴いている。笛の音。風が吹いている。 「……っ、は、……な、何、なにあれ、なに?」  壁にもたれて座り込みつつ、つぶやく。見れば、俺より前でうずくまっているのは仁羽だ。 「や、やっぱり……っ、月がきれいだから、出てきたのか、な……」  どうにか呼吸を落ち着かせようとする。仁羽はうずくまったままだ。心臓が暴れて、走った所為で噴き出した汗が、首筋を伝って落ちていく。 「お供えとか、したら、……いいのかな」
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