第3章 : 置いてきぼりグローリー

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 成島の所為じゃないよ、と告げたのは本心だ。きっかけは成島かもしれないけど、別に俺たちを怖がらそうしたわけじゃなくて、勝手に逃げただけだ。  ――とは言うものの、当の成島が自分の所為だと思っているらしかった。しゅんとしてうつむいているから、慌てて声をかける。 「いや、あの、成島。仁羽も怒ってないから」  な? と仁羽へ話を振ったのは、唇を結んではいるけど、険しい顔をしていなかったからだ。ぴりぴりした空気もあまりなくて、怒りは沈静化したと踏んだ。  案の定、仁羽はぎごちないながらもうなずいた。一発はたいてすっきりしたからかもしれないけど、たぶん、成島がしょげていることを理解したからだと思う。 「ほら、遠山まだ美術室だろ。待ってるかも」  なるべく明るく言って、二人の背を押して準備室に戻った。  部屋に入ると、真ん中に座っていた遠山が不思議そうな顔で俺たちを見た。それから、ぼそりと「……戻ってきたんだ……」とか言うから、茶化すように答える。 「いやー、戻り辛かったけど。でも戻りたくないわけじゃなかったし、そこまで薄情じゃないしー」 「……ごめんね、遠山……。僕が驚かせたせいで……」  俺たちの会話をまったく気にしないで、成島がダッシュで遠山の傍に座る。しゅん、という感じにしょぼくれる成島。遠山は不思議そうな顔を崩さず、成島の言葉に耳を傾けている。 「僕が……驚かせちゃったから……、遠山怪我しちゃったんだよね……足痛いよね……ごめんね……」  遠山はその言葉に、怪訝そうな顔をして「……いや……別に……。そこまでひどくないから……」と続ける。成島はまだしょげているらしいけど、声に明るさが戻ってきた。 「ほんと? ほんとに平気?」 「うん……どうにか歩けると思う……。飛んだり跳ねたりは……無理だけど……」  ちょい、と右足を動かしてみせるけど、遠山の顔に変化はない。普通に歩く分には問題ない、と言いたいらしい。成島が笑った。 「よかった! メノウ様のおかげかな!」 「うん……そうかもね……」  真顔で遠山が同意した。その顔があんまり真剣だったから思わず笑ったら、仁羽がこっちを見た。強いまなざしについ感想が漏れる。 「……何かさ……メノウ様も中々ご利益あるかもしれないなって」
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