第3章 : 置いてきぼりグローリー

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「折れてるわけじゃねえみたいだし、捻挫だとは思う。それなら、安静にして患部を冷やして、包帯かなんかで固定する」  考え込むわけでもなく、目の前にある本を読んでいるような口ぶりだった。こんな時の対処法が、仁羽の頭には当然のように入っているらしかった。思わず言葉が漏れる。 「仁羽ほんとすごいよな。こういうのどこで覚えてくんの? 何の本に書いてあるの? あ、ボーイスカウトやってたからそれ?」 「仁羽がいてよかったよねぇ。メノウ様は怪我しないからこういうことはわかんないし、お医者さんみたい」  成島と一緒に口々に褒めたたえると、ぶっきらぼうに仁羽は言った。遠山に視線を固定したまま。 「……あとでちゃんと病院行けよ。万が一靭帯切れてたり折れてたりしたら面倒くせえ」  頑なにこっちを見ないしちょっと早口だし耳が赤い気がしたけど、仁羽はつつかれたくないだろう。黙ってよう。  遠山は眠そうな顔でうなずいているのかいないのかわからない。「聞いてんのかよ」と刺々しく言い放つけど、あんまり効果はなかった。ただ、抵抗するつもりもないみたいだった。  仁羽はため息を吐いてから、冷やしたハンカチを足首に巻く。それから、俺たちの方を見て「何か包帯代わり持ってねえか」と聞くのでぶんぶんと首を振った。 「ないです。包帯の代わりになりそうなものは常備してないです」 「僕も持ってないよー。そのハンカチくらいしかないし。仁羽は?」 「持ってたら聞かねえよ」 「遠山何かないの?」  聞くと無言で鞄を差し出された。え、という顔をしたら「適当に見といて……」という返事。  いいのか中開けても、と思ったけど本人がいいと言うし、周りも別に普通だし、というわけで薄い鞄を開いた。  筆箱、蛍光ピンクのスマートフォン、ノートが二冊、くちゃくちゃになったプリント類らしきものがいくつか、噛んだあとのガムとか飴玉の空き袋などが散らかり、鞄の奥にはポーチみたいなものが入っている。  取り出せばピンク色のポーチで、日曜の朝にやってる子ども向けアニメのキャラクターがプリントされていた。 「……えーと、これは……?」
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