第3章 : 置いてきぼりグローリー

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 それなら、今は笑っていようと思った。何てことない顔を遠山がするなら、俺だってそうしていよう。遠山がいつか口に出したり、表に出したりするまでは、何てことない顔をしよう。 「うん、そうだね! あのね、美術室行ったら布いっぱいあると思うんだ。取ってくるから仁羽も行こう!」  にこ、と笑顔で成島が言った瞬間仁羽の顔が歪んだ。言いたいことはよくわかる。せっかく逃げてきたのに、どうして戻らなきゃなんねえんだよ、だろう。  しかし成島はまったく気にせず、立ち上がると仁羽の腕を引っ張る。 「だって僕、大きさわかんないもん。わかるのって仁羽だけでしょ?」 「……知るかよ適当に持って来いよ」  刺々しい言葉を投げつけるけど、成島に効くはずがなかった。笑顔をいっそう輝かせて、「怖いものの正体確かめた方がいいよ?」と告げれば仁羽が凶悪な顔を向ける。 「ただの鏡なんだってわかった方が、怖くないよ?」 「……まあ、一理あるよなー」  幽霊の正体見たりなんとかって言うじゃん、と笑えば律儀に「枯尾花だよ」と答える。そんな風に押し問答を続けていたのだけれど、中々埒が明かない。すると、遠山がぽつりと言った。 「別に……包帯なんて、なくてもいいんだけど……」
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