第3章 : 置いてきぼりグローリー

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 あまりに真っ直ぐ見つめられて、俺の視線がさまよう。遠山の斜め上辺りを見ながらそう言えば、立ったままの成島と目が合う。  にこっと笑った。メノウ様を手にしている時のような、力強いものでもなく。教室に一人でいる時のような、ふわふわした笑みでもなく。ただ真っ直ぐと、深い笑顔。 「……テメエら、ここで待ってろよ」  続いて響いてきたのは、地獄の使者でももっと愛想いいんじゃないか、というくらい低く濁った仁羽の声。そっちを見ると、仁羽が立ち上がって成島の名前を呼ぶ。 「行ってやるよ、美術室でも何でも!」 「そうだよね、仁羽だけダダこねてらんないもんねっ!」  爽やかな成島の台詞は、仁羽の心をえぐったらしい。一瞬言葉に詰まるけど、成島相手に同じ土俵で戦うのは無意味だと学習している仁羽なので、無視した。 「すぐ戻ってくるから、動くんじゃねえぞ」  指を突きつけて言う。俺は素直に「はーい」と返事をしたけど、遠山は何も言わない。  やっぱり迷惑だったのかな、と思って遠山を見ると、ゆっくり目を閉じる姿が目に入る。数秒そうしてから開かれた目は相変わらず眠そうだ。だけど。 「……まあ、早く戻ってきてよ……」  唇に確かな笑みを刻んでそう言った。見間違いでも何でもない笑みは、置いていかれることじゃなくて、一緒に行くことを選んだんだって思う。  仁羽は「言われなくてもそうする」と答え、成島が「りょーかい!」と叫ぶ。そうして二人揃って美術室へ出発して、俺と遠山は廊下に座ったまま待っていた。  仁羽は多少ゴネたらしく、少々手間取ってから戻ってきた。それでも布は大量にあったようで応急処置をしてから、月明かりの廊下を歩く。  時々仁羽をからかい、遠山は眠そうで、成島はたまに電波を受信しているけど、あんまり違和感がないのは俺もこの状況にだいぶ馴染んでいるからだろう。  そんな感じでどうでもいい話をしていたら、いつの間にか三階の端に到着していた。  ずっと歩いてきて、もう見慣れてしまった廊下が途切れる。さっき言い争いをしていた階段を横目に下りていく。ひょこひょこ歩く遠山を挟んで二階に到着すれば、今までと似た感じの暗さが漂っていた。
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