第3章 : 置いてきぼりグローリー

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 階段のすぐそばは職員室だ。成島が駆け寄ってドアノブを回すけど、予想通り鍵がかかっている。俺も公衆電話の受話器を取ってみたけど、何の音もしなかった。  仁羽はかろうじて外の光が入ってくる階段にたたずんだままで、動かない。遠山もなるべく動かないようにするつもりなのか、仁羽の隣で壁にもたれかかっていた。 「お祭り終わったし、先生たち学校とか戻って来るとかしないのかな……。現地解散?」  号砲が鳴ったということは神輿が帰ってきたわけで、祭りは終わりだ。結局行けなかった……と落ち込みつつ、誰にともなくつぶやく。  戻ってさえ来てくれれば発見してもらえるわけで、帰れるんだけど。成島は首をかしげて「どうだろうねぇ」と言ってから、仁羽に質問を投げた。 「ねぇ、せんせーたちは学校帰ってこないの?」 「来ねえだろ。戻ってくるなら荷物なり残ってる。あるか?」  仁羽の言葉に、扉についている小窓から職員室をのぞきこんだ。成島も背伸びをして中を見る。  淡い光の中、机たちが浮かび上がっている。薄い陰影の中に、荷物は見当たらない。もちろん、動くものは一つもない。電話も見えるけど、入れないなら意味はなかった。 「ないみたい」  仁羽の質問に答えた成島は、続けてぽつりとつぶやく。扉一枚で隔てられた職員室を見つめながら、事実を確認するような素振りで。ため息のようなものと一緒に、声を吐き出した。 「……全部鍵かかってそうだよねぇ……」  うちの学校は基本的に、教室類は全部鍵をかける。保健室とか家庭科室とか視聴覚室とかの特別室だけじゃなく、教室類も。  それはまだいいとして、問題は一階、入口の鍵だった。内側から開けられるならそれでいいし、かけ忘れてくれてれば一番いいんだけど。  一階まで行った所で、外には出られないかもしれないという現実がひしひしと迫ってくる。  その場合、学校で一夜を明かすことになるんだろうか。明日にはきっと、部活のヤツラも来るだろうし……。  とか思っていたら突然、「あ、だけどさ!」と明るい声で成島が言った。 「いざって時は、窓から出ればいいんじゃない?」
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