第4章 : 君の知ってる僕のこと、僕の知らない君のこと

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 ぼそぼそと続けられる遠山の言葉によれば、露払いをやった小四までは普通にサボっていたらしい。  元はといえば、いい加減ちゃんと出ろと先生が説得しに来たことがきっかけで、取引の話が持ち上がったという。 「……でも、よく露払いの踊り覚えられたなー。複雑っぽいのに」 「……別に……。基本動作は三つくらいで……あとは応用と……組み合わせの問題……」 「でもあれ、すごく時間かかるよねー、覚えるまで。練習いっぱいしてたもん」  遅くまで練習してるの見たよー、と最後のビスケットを口に放り込んだ成島がにこにこ言った。俺も、露払いをやることになったクラスメイトたちを知っているのでうなずく。 「そうそう。神社の社務所で練習してて、しかも夜遅くまでやるから帰る時超怖いって言ってた。まあ、遊びじゃないから送り迎え付きみたいだけど」  だとしても、神社からの山道を暗くなってから帰るのはお化け屋敷も目じゃない怖さだと思う。俺だったら、あの暗闇に何かいるかもしれない、そこの角を曲がったらもしかして……とか想像してしまう。 「じゃあ、仁羽は選ばれなくてよかったねー」  まったく悪気のない顔で、成島が告げる。きっと仁羽が選ばれてたら泣いちゃうよね、とかいう台詞に悪意が微塵も感じられないので、余計性質が悪いと思う。 「そういえば……。俺を迎えに来た父親が……道に迷った時の話なんだけど……」  ふと思い出したように、遠山がつぶやく。  曰く、迎えの時刻を大幅に遅れていたので近道をしようと山道に入ったはいいが、神社までの道がわからなくなって、立ち往生していたという。遠山は淡々と言うけれど、その言い方がものすごく、怪談っぽい。 「どっちに行ったらいいのかわからなくて……元来た道を戻ればいいのに、焦っていたのか……別の道に入ったんだって……。周りはどんどん知らない景色になっていく……一体ここはどこなのか……山のどの辺りにいるのかまるでわからない……山はすっかり暗くなっている……このままでは神社に出る所か、道路に出ることさえ危ういのでは……?」  落ち着いているのにやたらはっきりとした語り口には、妙な力強さがある。思わず黙って、遠山の話を聞いている。 「そろそろ危険を感じ始めた時……遠くに人影が見えてね……どっちに行けば神社なのか、聞いたんだって……」
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