第4章 : 君の知ってる僕のこと、僕の知らない君のこと

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 しかし、前方の影は何も言わない。何度呼びかけても反応がないので、らちが明かないと判断して別の道を行こうとした所、不意に影が動いた。目を凝らすと手招きをしていて、吸い寄せられるようについていく。  どこをどう歩いたのか、まるで記憶はない。疲れ一つ見せずに影は歩き続け、ふと瞬きをした途端影は消えてしまったという。 「それで……周りを探そうと思ったら……神社の裏だったんだってさ……」    だから無事辿りつけたみたい……と続けると、成島が「よかったねぇ!」と手を叩いた。親切な人がいてよかったね、とメノウ様に語りかけているけど、あれ、そういう話だっけ? 「シャイな人だったのかなって思ったらしいけど……よく考えたら、ずいぶん小さい影だったなって……。そもそも……子どもが出歩く時間じゃないし、子どもだとしてもあんな風に……疲れも見せないで歩けるわけないって……」  のんびりと、世間話の一端のように続ける。ちらり、と仁羽を見ると顔が白かった。唇を結んで眉間にしわを刻んでいるのは、何かを耐えているからのような気がする。 「それに……あの暗闇の中で、不思議と影ははっきり見えたって……」  不思議だよね、と言う遠山はまったく不思議そうではなかった。仁羽の握り締めていた拳が震えているのが見えて、早口でまくしたてる。もうここはいい話で片付けよう。 「あーうん、よかったじゃん、遠山のお父さんも遭難しなくて済んで!」 「まあ……迎えに来るのが遅れたことの言い訳という説もあるんだけど……」  え、そうなの? と尋ねたら、「本人は真実だと言い張っている……」と言うので。 「じゃあそういうことにしとこうよ。いいじゃん、人じゃなくたって。取って食われたわけでもなし、異世界に連れ去られたわけでもなし。人外だって害はなかったんだし!」  な、と言ったら思いっきり仁羽に殴られた。なんでだ! という目で見ると、遠山も殴ってすっきりしたらしい仁羽に「お前の発言も不穏だからだ」と答えられた。  どうやら、取って食われたとか異世界に連れ去られたとか人外が駄目だったらしい。そうか、それも駄目なのか。殴られた頭を抑えつつ、話題を変えるべく口を開いた。 「小学生ならともかく、中学生じゃ迎えに来ないよなー」 「そもそも、俺たちがここにいること自体わからねえだろ」
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