第4章 : 君の知ってる僕のこと、僕の知らない君のこと

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「出席取ってから下駄箱に靴戻しに行ったもん」  出席の時に返事をすれば、遅刻扱いにはならないのだ。  あの時はやばかったなぁ、と思い出に浸っていたら仁羽が「馬鹿か」とつぶやく。成島は偉いねぇと笑い、遠山は遅刻くらいじゃ死なないよ……? と言う。  俺は苦笑いを浮かべつつ、三人の意見を聞いていた。 「まーそうなんだけど。実際、遅刻を全く気に病んでない成島の描く遅刻防止ポスターが、金賞取ったりするんだし。適当なのかもなー先生も」  いや、でもあれは単純に絵の話だから別にいいのか? と思って、「成島の絵が良かったって話だから別にいいのか」と続ける。成島は、「あれ」と言った。 「園田、なんで知ってるの?」 「いやさすがに去年のことだし。ていうか俺、同じく二組だったんだけど」  全員描かされた生活習慣ポスターは、クラスで何人か金賞を与えられる。俺は「これ人?」とか言われるような代物にしかならなかったけど、さすが美術部上手かった。すごくポスターらしかった。 「ちゃんと覚えてるって、同じクラスで誰が金賞取ったかくらい」  明るく言ったけど、成島は首を傾げて「同じクラスだったっけ?」とかつぶやいていた。根本的に記憶にないらしい。  まあそりゃ、成島だし。周りに興味はないんだろうな、と思って納得した。遠山はそんなの描いたっけ……とあくびとともに吐き出した。 「描いただろう。尾西先生が許してくれるとは思えないし」  教室の扉が開かないことを思い知り、廊下の奥まで進みながら答えれば「まあ……そうだよね……」とうなずいた。 「仁羽だって描いてたもんなー。でもあれ、廊下に貼り出すのはマジ勘弁してほしくね?」  上手いヤツならいいけど、下手なのを知っているのに廊下に名前付きで貼り出されるとか、とんだ羞恥プレイだ。  美術の成績が良いわけじゃない仁羽だし、賛同してくれると思ったけど、仁羽はにらみつけるようにして俺を見ている。え、この話題も駄目? 「とうちゃーく!」    思っていたら成島が叫んで、たたたっと体育館とつながっている扉に駆け寄った。  通用口には大きな窓がついていて、明かりに照らされた外廊下がよく見える。ここが開けば外廊下になっていて、そのまま外へ出られるんだけど……。
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