第4章 : 君の知ってる僕のこと、僕の知らない君のこと

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 それまで騒がしく動かしていた所為なのか、突然音がしなくなると廊下の静かさが際立つような気がした。薄暗い廊下は、音もなくしんとしている。そう思ったのは俺だけじゃなかったらしい。 「あー、何か……こんなに静かなんだねぇ」  間延びした声で、成島が周囲を見渡しながら言った。風の音も虫の声も、今はずいぶん遠い。騒音に耳が慣れてしまったせいかもしれないけど、他の音がわからない。 「……昼間は、うるさいからね……」  ゆっくりと遠山が言い、俺も耳を澄ます。  確かに昼間の学校は人の声や音に満ちている。それに比べて今は、細かい音は聞こえるけど、はっきりとした形はない。風の音にも聞こえるし、楽器の音のようでもある。廊下を照らす光みたいにぼんやりしている。 「本当に……静かなんだな」  おだやかに仁羽が言った。廊下の窓からは小さく空と木が見えるけど、動かない。今は風もないのだろう。絵を貼り付けたみたいだ。  降ってくる音は何もない。木々のざわめきも、虫の声も、動物の気配も、はっきりしたものは一つもない。 「……夜って静かなんだなー……」  普通に歩いてたけど、この廊下では、話す声はもちろん、足音や息をする音でさえ響くのかもしれない。それくらい静かな夜。しーんって音でも聞こえてくるみたいに、静かだ。
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