第4章 : 君の知ってる僕のこと、僕の知らない君のこと

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 胸を張って笑った。俺には当たり前のことだけど、当たり前のことをちゃんと出来た。誰かに自慢したい気分だった。ちゃんと名前を呼べた。いろんな人の名前を、いつだって呼んでいるけど、今はきちんと声になった。 「三人とも知ってるよ」  大手を振って歩きたい気分で、一歩二歩と踏み出す。  知っていることが意外そうな三人だけど、名前くらいちゃんと知っている。だっていつだって呼べるように、呼ばれてもいいように、準備だけはしとかないと。  数歩進んだけど、三人が動かないので「戻んないの?」と振り返る。すると、眉間にしわを刻んだ仁羽が地を這うような声でつぶやいた。 「……お前……暇だろ」 「……えーと、どういう意味?」  イマイチ話の方向性がわからなくて聞き返すと、仁羽がしかめっ面のままで「なんで知ってんだよ」と言う。 「全員の名前言えるってだけでも暇だろ。それに、お前俺がボーイスカウトやってたことまで知ってる始末だ。しかも、当たり前みてえな顔してやがるし」  ぶつくさと、遠山が露払いやってたこととか成島の絵が金賞取っただとか、なんで知ってんだ よ、とこぼす。絶対お前暇だろ、とか言われるので「まあ……」とうなずきかける。     
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