第4章 : 君の知ってる僕のこと、僕の知らない君のこと

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 足を止めてからひきはがしつつ尋ねると、切羽詰った顔で見上げられる。珍しく泣き出しそうな、この世の終わりかメノウ様に一大事でも起こったような、そういう顔をしているから身構えるけど。 「ごめん、僕、園田の名前知らない……!」 「……何だ」  もっとスゴイこと言われるのかと思ったので拍子抜けした。しかし、成島は俺の反応が意外だったらしく、けげんそうな顔になる。 「……いや、俺下の名前で呼ばれることほとんどないから。知らなくても仕方ないでしょ」  小学校の時から、記憶にある限り全員「園田」呼びだった。あだ名もあったけど全部名字由来だったし、下の名前で呼ばれた記憶が本当にない。  ただでさえ周りに関心が薄い三人だ。下の名前で呼ばれる機会はほぼゼロだし、思い出そうとしたって記憶の中に出てくるわけがない。  だから知らなくても全然驚かないし、むしろ知ってた方がびっくりだ。なのでぼんやり答えると、仁羽が言った。厳しさを感じるような声で。 「……で、お前下の名前は」 「……よしと」     
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