第4章 : 君の知ってる僕のこと、僕の知らない君のこと

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 声の調子が強いから、反射的に答える。自己紹介でも何でもない時にこうやって名前を言うのは、そういえば初めてかもしれない、と気づいて少しくすぐったい。 「……字は……?」  続けて遠山が尋ねる。眠そうなようでいて、目ははっきりしている。遠山らしい質問だな、と思いながら視線にうながされるように答えた。 「正義の義に人で、義人」  答えたら、ずいぶん立派な名前してんな、と言う。それから、ふん、と鼻を鳴らしてからつぶやいた。 「忘れねえよ、そんな大層な名前」  小さいけど確かに聞こえて、どういう顔をすればいいのかわからない。  確かに字は立派だけど、よく使われているし奇抜なものじゃない。だからそこまで大層な名前じゃないし、どこにでもあるようなありふれた名前だ。  仁羽がそんなことに気づかないはずがないってよくわかってる。それなのにそんな風に、言うから。  仁羽が歩き出し、俺を通り越した。遠山と成島も続き、花でも飛ばしそうな笑顔で言う。 「僕も、忘れないからね! ちゃんと覚えてるよ」  あまりに朗らかでとっておきの決意でもしたような顔で笑うから、どう返せばいいかわからない。口ごもっていると、そんなことを気にしない成島はさっさと通り越していく。すると遠山が先の方で言った。 「うん……俺も、忘れないよ……。園田の、名前」
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