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「そんなに怖い? 俺がじぃさんに似てるから?」
「頼む、雪耶……やめ……」
「実は俺じぃさんから聞いてたんだ。父さんをハメたってこと。酒に酔ってベラベラ喋ってくれたよ」
「……嘘だ……っ」
「とんだ腐った家族だよな。俺らって。本当ヘドが出る」
雪耶は苦しそうに顔を歪めたが、錯乱状態に陥りかけている俊幸に気づく余裕はない。
「でも一番腐ってんのは他でもない、あんただよな?」
「ちが――」
咄嗟に否定しようと言葉を発したが、その瞬間、左頬に鋭い衝撃が走る。パンッと乾いた高い音の後に、じんわりと鈍い痛みがやってくる。
人から暴力を振るわれた経験のない俊幸にとって、雪耶が放った平手は屈辱にも似た悔しさを伴わせた。だが、それと同じくらい恐怖で身体が竦んでしまう。
大人しくなった俊幸を皮肉気な眼差しで見下ろす雪耶は、父親の頬にそっと手を当てて、わずかに熱を帯びたその体温を楽しんだ。
「これはお仕置きだ。悪いことをした子にはお仕置きが必要だ。これも全部、お前を愛しているからだ――だったか?」
雪耶の手は頬から顎へと滑り、恐怖のあまり顔を背けようとした俊幸の抵抗を奪った。
「悪かった……っ、俺が、悪かった……だからっ」
「そう、悪いのは父さんだ」
ゆっくりと雪耶の顔が近づいてきて、親子の距離はいっそう短くなる。唇の端をねっとりと舐められ、その熱と刺激に、忘れたはずの熱が徐々に高ぶってくる。
「あんたは実の息子を犯した。自分がされたことを、息子にも強要した。愛なんて言葉が免罪符になると思うなよ。あんたのせいで、俺は一生を狂わされた!」
「痛……っ」
怒りの感情に任せて、雪耶は俊幸の下唇に歯を立てた。ぷっくりと腫れたそこから血が滲み出る。雪耶の舌はその血を舐め取り、そのまま俊幸の口腔内を嬲った。決して交わってはいけない互いの唾液が混ざり合い、否が応でも飲まされる。
「なあ、どうして俺にあんなことしたんだ? 答えろよ、父さん」
最後に口の端に溢れた唾液を舐め取った雪耶は俊幸に尋ねた。
呼吸を整えている間、俊幸は過去へと想いを馳せた。
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