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アミコは目の前の光景に何を思ってよいのか分からなかった。
東京ではめったに拝めないような、青く澄み渡る空の下。
とんと静まり返った瓦礫の山の上で、少女はひとりぽつねんと佇んでいる。
藤巻(とうまき)アミコ。
それが彼女の名だ。
パーツのせいか幼く見えるが、まぎれもない17歳の高校生である。
その視線の先にあるのは、見わたす限りの瓦礫。
所狭しにそびえ立っていたビルの群れは面影さえない。
真夏の生温い風が、双肩に垂れさがる2本のおさげ髪を揺らす。
さんさんと照りつける太陽に、真っ白なブラウスが光る。
しかし、その背後に濃い影が音もなく迫っていた。
ややもすると、影は街の一帯ごとアミコから陽を遮った。
見上げるアミコ。
頭上には、巨大という言葉すら小ぶりに思える超巨大飛行物体。
不意に、足もとでラジオの電源が入る。
『巨大宇宙船……通称「母艦」が現れた7・10から今日で3年だ』
ノイズ混じりの、とても聞きなれた男の声。
その説くような口ぶりは、少なくとも2人以上の誰かを前にしているようだ。
『高度10000m付近を浮遊している5隻の「母艦」は、今なお侵略攻撃を続けている。7・10で被害に遭った中東を皮切りに、欧州、南米、西アジアなど、その被害は拡大の一途をたどっている。しかしながら、有効的な反撃手段がないのが現状だ。日本も救助支援で派遣された自衛隊員から多くの犠牲者を生み、昨今では防衛力の低下が問題視されている』
ラジオが一瞬止まった。
『おい、藤巻。聞いているのか』
突然、ラジオがアミコの名を呼んだ。
そして次の瞬間、ラジオの音量がひとりでに最大になった。
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