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親友の細谷(ほそや)サチだ。
寝るまでには至らないが、気怠そうに机に突っ伏している。
机には教科書さえなく、授業態度は目に見えてアミコより悪い。
それでもお咎めなしなのは、一歩手前でアミコが寝ていたからだ。
アミコは腑に落ちない様子で、サチへ声を潜ませる。
「うるさいなあ」
「まあ、眠くなるのも分かるけどね。橋野の話ってつまんないし。……てか宇宙人相手だよ? 今日殺されるか明日殺されるかの違いでいちいちうるさすぎ。そもそも授業やってる暇ないっていうなら自習にしろっての」
「だよねえ」
さり気なく物騒なことを言うサチは、終末論支持者だった。
またアミコも、サチほどではないが終末論に傾いていた。
「ところで、対岸の火事って何?」
「さあ?」
「あっ。てかさ、聞いた?」
「何を?」
「中原のやつ、卒業したら自衛隊行くんだって」
「……マジ?」
「マジ」
アミコは信じられないといった顔で、窓際の一番前の席を見る。
このクラスで中原と言えばただひとり。
中原カズヒロだ。
しかし、アミコは会話らしい会話をほとんどしたことがない。
アミコが彼について知っていることと言えば、野球部だということとあともう1つ。
160cmの自分より背が小さいということくらいだ。
「宇宙人になんて勝てっこないのに、よくやる気になるよねえ。そんなもん、死にに行くようなもんじゃん? ま、それまでに日本があるか怪しいけどね」
「…………」
空を眺めているカズヒロ。
が、その視線の先を追ってみたところで、澄んだ青があるばかりだ。
サチがアミコの横でため息をつく。
「こんなことになるならもっと好きなことやっときゃよかったなあ……。“速報です。ただ今、宇宙人が現れました”……って、B級のSF映画かよ」
サチは一部アナウンサーのマネをして言った。
それから、“フンッ”と鼻で笑った。
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