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そこへ焦燥とした面持ちの生徒指導がやって来て、ドアを開けた。
「みんな聞いて! これから周りの方々や自衛隊の方々と校庭で合流して地下シェルターへ避難します! 橋野先生の指示に従って速やかに行動しなさい!」
「聞いたなお前達! いいか、これは訓練じゃないぞ!」
隣の教室へ駆け出す生徒指導に次いで、橋野が言った。
地下シェルターとは、宇宙人から国民を守るために政府が全国各地で造らせているものだ。
しかし、今は施工開始からわずか3年しか経っていない。
東京の都心部であっても、3区につき1基という割合でしか完成していなかった。
ぞろぞろと教室から移動を始めるクラスメート達。
浮足立つ者。
ちょっとしたイベント程度に捉えている者。
その顔は様々だ。
「アミ、アタシ達も行こ」
「う、うん」
今しがたまでの余裕はどこへやら。
冷静を装ってはいるが、サチの表情からは恐れや不安が見て取れる。
しかしアミコも同じだった。
心臓が大きく脈打ち、息苦しい。
終末論支持者といえども、それがいざ目の前に迫ればこんなものなのだ。
ほどなくして校庭へ出たアミコ達。
すでに多くの近隣住民でごった返していた。
が、牽引を任されているはずの自衛隊の姿はどこにも見当たらない。
住民達のうち何人かが、戦慄の眼ざしで東の空を指さしている。
その指先を追うように振り返るアミコ。
千葉方面上空。
霞がかった「母艦」の姿があった。
と言っても、海を航行する空母のようなものではない。
その外貌を分かりやすく例えるなら「直径100kmの黒い碁石」だ。
100kmというと、東京都渋谷区から茨城県水戸市までを直線で結んだおよその距離だ。
それが約10000m上空をゆったりとした速度で移動しているのである。
継ぎ目や突起物はいっさいない。
よって、見様によっては空に開いた大きな穴のようにも見える。
何にせよ、その異常さたるやこれが現実であることを忘れさせるほどだった。
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