スズラン

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「いらっしゃいませ」 「いらっしゃいましたぁ」 「御注文はどうなさいますか」 「君のハートがいいかな」 「ブラックコーヒーで宜しいですね」 「スマイルください」 「お引き取り願えますか」 私は心の内で大きく溜息を吐いた。 月曜日のこの時間に、毎週このような茶番を繰り返している。 この目の前のおちゃらけた男は、営業妨害をしてくる得体の知れない物体Xで、ある日を境に毎週のように来るようになった。 この時間の客数は本当に微々たるもので、大抵は小太り店長と私の二人で店を回しているが、店長は常に冬眠気味の熊で、バックルームに篭ったまま出てこない。 こんなか弱い乙女を一人で深夜に営業させるなど、本当に良い度胸していると思う。 何か問題が起きたら、一体どうするつもりなのか。 いや、実際、目の前に毎週来るこの男こそが大問題であるというのに。 以前、目の前の得体の知れない不審者について店長に話せば、「あら!まあまあ!潤ちゃんたらモテるのねえ」という適当な言葉と共に、肉付きの良い臂でつつきをお見舞いされた。 因みに店長は、男である。
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