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わかってる。
そんな事は重々わかってる。
でも、このままでいて欲しいと願うのは、やはり俺の自己満足なんだろうか。
俺がずっと浮かない顔で黙っているので、らちがあかないと思ったのか、拓未が寄りかかっていたフェンスから体を起こすと一度背伸びをして、俺に背を向けた。
「まぁ、そうは言っても、見た目はほわほわしてて天真爛漫って感じだけど、あいつの芯は強いからな。俺がどうこうしたって振り向いてもらえるとは思えないけどさ。じゃ俺、部屋に戻るわ。」
拓未はそう言い残してヒラヒラと手を振って、この場から去っていった。
取り残された俺は、とりあえず自転車を定位置に停め直して、さっきまでの拓未とのやりとりを振り返る。
「いつまでもこのままってわけにはいかないんだよな。」
ぼそりと呟いて、言葉の意味を反芻する。
上を見上げると、スーッと数匹のトンボが飛んでいるのが見えた。
もうすぐ夏が終わる。
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