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町で一番大きい漁港は少し遠いので、母さんの車に乗せていってもらっていた。
「ゆっこちゃん、今日は奈波に付き合ってくれてありがとね。」
母さんがハンドルを握りながら、後ろの席に座る有希子に声をかける。
有希子はブンブンと大げさに手を振って否定する。
「私の方こそ、浴衣着付けてもらったし。高校最後の夏にみなと祭りに奈波と行けて嬉しいんですよ。」
有希子はそう言いながら、助手席に座る私に笑いかける。
「あ、でも奈波は本当は一緒に行きたい人が別にいたのかな?」
急に含み笑いに変わった有希子の言葉に、私は気が動転しそうになる。自分の気持ちが母さんにバレてしまうんじゃないかと思うとものすごく恥ずかしくて、顔が赤くなってしまう。
そんな私をよそに、母さんはただ優しく微笑み返す。
「まぁ、私もあなたたちの年頃にはそういう甘酸っぱい事もあったからねぇ。迷惑かけない程度に思いっきり今を楽しみなさい。で、誰と行きたかったの?」
有希子と母さんの二つの視線がこそばゆかった。
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