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有希子と母さんにからかわれながらも、なんとか彼の名前が出る事がないままみなと祭りの会場の漁港に着いた。
車から降りて空を見上げると、空一面に薄紫の夕暮れが広がっていて、まだ風は生暖かさがあるけれど、ほんの少し秋の予感がした。
そして、これから花火が始まるワクワク感がぐっと襲ってきていた。
お店の営業がある母さんはそのまま家へと戻って行き、私と有希子は履き慣れない下駄をカランコロンと鳴らしながら駐車場から屋台のある方へと歩き始めた。
普段は入港した漁船から魚を降ろし、加工業者なんかに運ぶためのトラックがたくさん停まっている駐車場に今はトラックの姿はなく、代わりにたくさんの屋台が軒を連ねていた。
「圭介さんとこの屋台、どこだろね?」
人混みの中、前を歩く有希子が振り返りながら問いかける。
この町にこんなにいたのかと言っていいほど人で活気に溢れていて、それぞれの屋台からも客を呼び込む威勢の良い声が聞こえてくる。
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