拓未と奈波

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夕暮れが闇に包まれそうになる時間帯。 俺はうちの水産加工場もある、町で一番大きい漁港に来ていた。 今日はみなと祭り。 いつもはただただ魚と海の匂いしかしない、人よりもカモメの数が多い漁港も、珍しく多くの人で賑わっている。 正直人混みは好きじゃないから、あんまり祭りに来たくはなかったけれど、洋人との約束を果たす為に重い腰を上げてやって来た。 先日、俺が都会で就職が決まったと洋人に告げた日。 一切就職の相談をしなかったせいで、港から走り去る洋人の後ろ姿に罪悪感を感じていたが、翌日洋人の方からわざわざ家までやってきた。 その手には「就職祝いだから。」と俺の好きな炭酸飲料のペットボトルが3本も握られていた。 産まれた時からずっと一緒に過ごしてきた幼馴染みの気遣いがものすごく嬉しかった。 その時洋人から、みなと祭りで圭介さんところのお店の屋台でアルバイトをするからと告げられて、顔を出しに行くからと約束をした。 この約束を果たさないわけにはいかなかった。
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