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その声のした方を振り返り、一瞬だけ恨めしそうな顔を向けたけれどすぐに仕方ないといった顔に変わって声の主に返事をする。
「珍しいね、直がこんな場所に来るなんて。」
私が直と呼んだ人物、直和(なおかず)は私たち5人だけの同級生のひとりで、洋人や拓未とは違いどちらかと言えば物静かで落ち着いていて、本を読むのが好きな優等生タイプだ。
だからといって仲が悪いとかそういうのではなく、やんちゃな二人を見守ってくれているお兄ちゃんみたいな感覚だった。
私が言うのもなんだけど、この港町に相応しくないくらい、色が白くてひ弱な印象で、防波堤にいることが本当に珍しくて思わず声に出してしまった。
「自動車学校から帰る途中で、ひとりで黄昏てるお前を見つけちまったからな。声をかけないわけにはいかないと思ってさ。」
直はそう言いながら、私の隣に座り込む。
「直はさー、この町出るの?」
私の問いかけに、さして驚きもせず直は即答する。
「出るわけないだろ。公務員試験受かったから来年からは町役場で仕事だ。」
直は私の方をちらりと見てから、地平線へと目線を動かした。
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