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自分の心の奥がずーんと沈んでいくのがわかったけれど、やはり平静を装って2人の会話に耳を傾ける。
「なんだ、洋人は漁船レースには出ないのか?」
「うん、父ちゃんは出るけど俺はまだ船舶免許持ってないからさ。」
相変わらず額を伝う汗を拭いながら、洋人は屈託のない笑顔を向け続ける。
「あ、圭ちゃんとこの屋台、お前の好きな焼きとうきびも出すみたいだから奈波も買いに来てよ。」
ふいに洋人が黙って聞いていた私に向けて声をかけてきた。
私がとうもろこしを大好きな事を、覚えていたなんて。
沈んでいた心の奥が、少し軽くなった気がした。
「うん、圭介さんが焼いてくれたとうきび食べたいから行くね。」
素直に「一緒にお祭りを見れなくて残念」とか「私の好きな食べ物覚えてくれていてありがとう」とか言えればいいのに、口から出てくる言葉はどこか裏腹だ。
しかし、それに気付いているのかいないのか、洋人は笑顔を向け続ける。
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