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“ワンダーデザイアへようこそ!”
ブラックアウトしたスマホの画面にふわりと歓迎の詞書きが浮かび上がる。
その文字が崩れていくとともに、画面に霧のようなものがたちこめる。
霧が晴れると、いつの間にか自分は広大に広がる大地の遥か上空――緑の山々や、絵筆で一息に描いたような青い川、荘厳な造りの城を中心に放射状に広がる街並みを見下ろす位置にいる。
「Now loading...」の文字が消えれば、ゲームスタートだ。
自分がいるのは、剣と魔法が交錯する異世界の扉の前。
“身分証を御提示ください。”
画面右下で自動スクロールしていくチャットウィンドウに、専用の灰色がかった堅いフォントが流れてくる。
ゲームを進行しているオートプログラム(このゲームではナビゲータと呼ばれている)からのメッセージだ。
すると画面上に、日に焼けた顔に微笑をたたえた青年の写真が入った、免許証のような見た目のカードが一枚、現れる。
人差指でそれをタッチし、そのままスライドして画面の奥へと弾く。
飛んでいったカードから花火のような光があがり、その残燭が画面上にキラキラと降り注ぐ。
光のカーテンがあがった先に、先ほどのカードの写真の青年が立っていた。
両刃の剣を携えた逞しい体つきの彼の名前は、ブルーノ。
彼は、俺こと青野翔大がこのゲームをプレイする上で使っているキャラクターだ。
今日話そうと思うのは、このゲーム――ワンダーデザイアで、俺とブルーノが体験したとある事件のことだ。
いや厳密には、ブルーノと、彼のパーティメンバーである少女と、俺と、俺の幼なじみの話になる。
よくあるスマホアプリと思っていたゲームで遭遇した、不可思議な出来事。
そこで俺たちが選んだ、"未来"の話だ。
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