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ある夏の日のことだった。クーラーの効いた涼しい部屋で懐かしの高校の卒業アルバムをめくっていると、その異変は起こった。
高校時代から大好きだった彼の顔がーーというより頭のてっぺんからつま先まで身体全体がすぅっとまるで幽霊が消えるかの如く消えていったのだ。いや、幽霊は見たことないけども。
クラスで取った集合写真だった。クラスでも一、二を争う背の高い彼は一番後ろの真ん中にはにかみながら立っていた。その身体が目の前で消えていく。彼のいなくなったあとには彼の後ろにあったであろう緑の木々が写っていた。不自然にその列の真ん中だけぽっかりと空いたまま。
その写真を凝視しながら、私はアルバムの横に無造作に置いたパステルピンクのスマホを手に取ると、電話をかけた。相手は2コールですぐに出た。
「も、もしもし? あ、うん、久しぶり元気にしてた? うん? 私はもちろん元気」
じゃねぇーわ。
「あのね、高校のとき、同じクラスだった宇宙(そら)くん覚えてる? え? ほらいたじゃん、あの背の高くて王子様っぽいイケメンだけど性格が地味で理系でパッとしないけどそこがもうどうしようもなく可愛い……え? 覚えてない? あはは、そだよねそんなイケメンうちのクラスにいなかったよね」
通話を切った。涼しいはずなのにダラダラと汗が出てくる。あぁ、冷汗ってやつだな。クーラーの温度あげよう。
「じゃねぇーわ」
いや、ヤバくね? これは怪奇現象じゃね?
慌てて他のページをめくるも彼の姿がどんどん消えていく。まるで蜃気楼でも見たかのように。いや、蜃気楼見たことないけども。
落ち着いて考えよう。存在したはずの彼がいきなりアルバムの写真から消えたかと思ったら、電話した旧友は彼の存在を知らないことになっていて、えーと、うーんと……。
私の頭の中で電球が点いた。
「そうだ 彼に電話しよう」
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