10人が本棚に入れています
本棚に追加
スマホのアドレス帳を立ち上げると、しっかり彼の名前が刻まれていた。
名前をタッチすると番号が出て、その番号を……押せない。
「ちょっと待って落ち着こう」
胸がドキドキ、動悸が激しい。いや、電話なんてそんなちょっとさすがに恥ずかしいよね。
あれからもう6年の歳月が流れたわけで。それでもずっと彼のことを思い続けていたわけで。って、そんな重いもんじゃない。高卒で就職して男女関係はじめいろんなことを経験して、ただときどき疲れたときやふとしたときに彼のことを思い出してアルバムを見て、当時の思い出を……うん、考えてみると結構重いね。
じゃねーわ!
「うじうじしてる場合じゃない! 電話しなきゃ、電話」
ピッ。押しちゃいました。押しちゃいましたよ! あー何話そう、待ってまずトーン高めでいく? 低めで大人っぽい自分を演出? など瞬時に頭の中にいろんな思いが駆け巡った。通話音が途切れる。
「はい。……今から罪を清算しに過去に行くから、探さないで下さい」
「いぇ!?」
切れた。ツーツーツーと空しい音が流れる。
え? なに今の? めっちゃ大人になってる! いい! 大人宇宙いい!
「いや、問題はそこじゃあない」
過去に行くとか、罪を清算とか言ってたぞ。そして、探さないでって言ってたけど。
思わずため息が出る。あの頃のように。
「こりゃ、過去に行くしかねぇな。どうやって?」
彼の初めて聞いた哀しげな声が耳から離れなかった。
最初のコメントを投稿しよう!