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出会いはたしか体育祭のとき。同じクラスにそういう人がいるのは知っていたけど、地味目で特に注目してなかった。
宇宙は100m走に出ることになったけど、全然やる気も自信もなさそうで、おいおいこいつ大丈夫かって陸上部所属の私が教えに行って、側で見たら背が高くてイケメンってことにちょっとときめいて、意外に頑張って指導についてくる姿にちょっと可愛いなって思った。
仲良くなったのはそのあとの文化祭。クラス委員がおんなじになって、準備しながら二人だけでいろいろ話して。
そう、名前で悩んでたのだ、やつは。「天笠宇宙って宇宙人みたいで嫌だって」。小学生のときにバカにされてからずっと名前を気にしてたらしい。そりゃぁ、天に宇宙なんて絶対親ねらったでしょみたいな面白い名前だし、私も小学生だったらからかってたかもしれない。それはちょっと思ったけど、「カッコいい名前で私は好きだよ」と言ってしまった。
言ってしまって宇宙が恥ずかしそうにうつむいたもんだから私も意識しちゃって。
好きーーと気持ちがハッキリしたのはそのあと。宇宙が文化祭の当日に必要なものを買うのを忘れ、急いで一緒に買い出しに行ったときに、なんの話しの流れか、たぶん落ち込んだ宇宙を懸命に慰めていたからなのか、彼の口からそのネコの話が出された。
「自分が殺してしまった」んだと。よくよく聞けば不慮の事故なんだけど、ものすごく自分を責めてた。でも、それは小学生の頃の話で。それを今でも引きずってて、きっと人格形成にまで影響を与えていて、今まで辛さを分かち合える人がいなかったんだろうなーと思ったら、途端に宇宙のことがとっても可愛くていとおしくなってしまった。
それからは、大会の応援に来てくれたり、私が苦手な理系科目を宇宙に教えてもらったり、なんだかんだ理由をつけて毎日のように会っていた。
まるでアルバムをめくるように高校時代の記憶が次から次へと溢れ出てきたーーああ、どうしてあのときお互いに告白しなかったんだろう。
車掌のアナウンスで目を覚ますと、手の甲で目をこすった。
うん? 濡れてる?
少しだけ涙がこぼれていた。
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