第1話「政治家・大洞佑太」

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○大洞家・リビングルーム    食卓で、ビールをグイグイ飲んでいる大洞。かなり酔っぱらっている。 大洞「若い奴らの三人に一人しか投票に行かないこの国を、どうやって引っ張っていった  らいいというんだ。そいつらこそ、国の将来を考えない税金泥棒じゃねえか」    大洞友代(52)が、水を入れたコップを持って現れ 友代「あなた、税金泥棒は言い過ぎですよ。はい、お水」 大洞「だってそうだろ。俺は政治家になって、この国を良くしたいと思ったんだよ」 友代「ケネディ演説ね」 大洞「そうだよ。学生時代に習ったよな。『我が同胞諸君。国が君たちに何をなし得るかを  問いたもうな。君たちが国に何をなし得るかを問いたまえ』。俺はその言葉に震えて、政  治家を目指したんだぞ。一介のNPO職員だった俺がさ」 友代「支持してくださった方が大勢いらして、よかったじゃない」 大洞「ズボラスタンとの密約だって、国の将来を思えばこそじゃねぇか。嘘つきたくてつい  てるわけじゃない。こんなことなら、政治家になんかならなきゃよかった」 友代「嘘よ」 大洞「だから、嘘と言うなっ」 友代「いいえ、あなたの『政治家にならなきゃよかった』という言葉が嘘だ、というの」    微笑む友代。 ○元の閻魔王庁・最獄裁判所    太洞のセリフが繰返される。 大洞「こんなことなら、政治家になんかならなきゃよかった」    浄玻璃の鏡の電球、赤く光って鏡のてっぺんまで点き、そこで止まる。弱い音でキン    コン、とのみ鳴る。 閻魔「半分嘘、半分本音、ということのようじゃな」 大洞「女房には、苦労かけましたから……」
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