海咲ちゃん成分欠乏症のこと

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海咲ちゃん成分欠乏症のこと

 時は夏休み。  私は深刻な海咲ちゃん成分欠乏症に陥っていた。  無気力、怠惰、惰眠、夜更かし、食べ過ぎ、宿題したくない等々、様々な症状に苦しめられているのだ。  ああ、海咲ちゃん。  会いたいよぅ。誰かくれよ、きっかけをさぁ。  きっかけをくれたのは、我が母聖子さんだった。 「ねえ、野乃花。映画のチケットいる?」  私は割と気軽にそれを受け取った。 「ブサ猫物語?」  やぶにらみの猫が、チケットの表面にでかでかと写っている。  公開日は今週の金曜日だ。なんだ、随分いいチケットだな。映画が面白いかどうかは置いておいて。今日は水曜日なので、明後日以降って事になる。 「まあ、感動ものらしいんだけどね。私ほら、猫アレルギーじゃん」  スクリーン越しの猫にアレルギーもへったくれもあるものか。 「せっかく貰ったんだけどさ、行きたくないのよねぇ」  そっちですよね? 結局、そこだけですよね? 「後、そのチケットを渡せば夏休みに入ってからずーっと家でゴロゴロしている娘がどっかいってくれて、その間に私がリフレッシュできるなぁってさ」  いかがであろうか、この聖の文字を冠するに値せぬ言動。     
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