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もう数年前の話なんだけど。
当時古着にはまりだした自分は、休日になると古着屋巡りをするのが日課だった。ジーンズとかスタジャンとか毎回テーマを決めてて、その日のテーマは革ジャンだった。
自分はブランドとか素材はそんなにこだわらない方で、とにかくフィーリングを重視する方。
昼頃に、いつも行く古着屋の中でも特に革ジャンの品揃えがいい店に行った。いつも通り棚の端から端までずらりと並ぶ中に、不思議に目にとまったやつがあった。特に目を引くデザインとかじゃなくて、吸い寄せられるように何でかわからず、それを手に取った。
自分は肩が凝るのが嫌で軽めで柔らかい革ジャンを探してたんだけど、それはとんでもなく軽かった。軽いというより、違和感がない。羽織った途端にしっくり馴染んで、肘を曲げ伸ばししてもぴったりついてくる。素材は表革だけど、不思議な風合いだった。山羊革ほどゴワゴワしてなくて、豚革ほどキメが粗くない。最初見て馬革かと思ったけど、なんか違う気がした。馬はもっと硬いのかな?
革の質感と変色からするとかなりのヴィンテージだろうけど、ひび割れも剥がれもなく、いい感じにしっとりしていた。
ブランドタグは付いてた形跡もなかったけど、元からそんなにブランドに執着しないから気にしなかった。
これは前の持ち主が相当可愛がってたな、と思って、掘り出し物だな~とかおもいながら値札を探したんだけどどこにも付いてない。
店主はかなりテキトーだからまた付け忘れたのかなと思って、今度は素材タグを探した。手入れが大変なやつだとめんどかったから。
着てるうちに、ますます革ジャンはぴったりと吸い付いてきて、まるで着てないみたいに身体に馴染んでいた。
素材タグはすぐ見つかって、内側の脇腹辺りに付いてた。
見た瞬間、凍りついた。
洗濯マークとか注意書きとか何もなくて、一言、
HUMAN
とだけ、黒い普通の文字で書いてあった。
今思うとブランドタグだったのかもしれんし、変ないたずらかもしれん。
でも、明らかに着古されたヴィンテージの質感のジャケットに真っ白な新品布のタグの異様なコントラストは、未だに忘れられない。
何より、そのタグを見たあと、それでも欲しい気持ちが無くならなかった自分が嫌だった。それからも古着屋は行くけど、そんな経験はない。
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