気づいてしまったから。

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「ん。」 風磨くんに差し出された手に、私は当たり前のように自身の掌をのせた。 母の遺骨を抱いて歩いたあの日、私を思い出の中から連れ出してくれた風磨くん。朝、目が覚めた時に弥生ちゃんがいてくれて嬉しかった。 結婚を白紙にすると、待つと言ってくれた風磨くん。私にとって、誰よりも優しい風磨くん。 そして私が花嫁修業に苦戦している最中、風磨くんは私よりももっと大変なお仕事と勉強をしている。口にはしないし、疲れた様子も見せないけれど、その努力を私は知っている。 ご飯を一緒に食べられない時は、何だか寂しくて、残念な気持ちになる。 でも、夜寝る前に会いに来てくれる。大体、風磨くんが赤面して去ってしまうのだけれど。そんな、照れ屋の風磨くん。 素直で、頑張り屋さん。幼い面立ちに、幼い声。なのに「俺を好きにならせてやるよ。」なんて、大人の余裕の表情を見せちゃって…不意打ちだよ。 彩人さんとしょっ中、口喧嘩して拗ねて。拗ねると風磨くんは、唇を尖らせるの。最近気がついた。 「………。」 (女の子からプロポーズするのって変かな?でも『待つ』って言ってくれたんだから、私から答えを出さなきゃいけないよね。) カランコロン。 お誕生日に打ち上げ花火…準備は十分、整っているじゃないか。だが、私の出した答えはもう遅いだろうか?喜んでくれるだろうか? たくさんの勇気と、一大決心。受け入れてくれるかな?受け入れてくれるといいな…そんな思いで、風磨くんの隣りを歩いた。
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