序章。

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春。 遠くまで見渡せるほど、真っ直ぐ、道の伸びた住宅街。その端に並ぶ満開の桜の木々たち。 風に乗って散る花びらの下を、私は母の遺骨を抱いて歩いていた。 病気だった。仕方がなかった。しかし、父の面影を知らない私にとって、母を失くすことは身を切られる以上に辛く、悲しいことだった。 (高校は、無事に卒業できたし…。もともと母子家庭だし。就職組だし…。平気だもん。) そう言い聞かせながら、静かに伝う涙の冷たさを感じる。のん気に効果音をつけるなら「トボトボ」がお似合いだろう。 ため息を吐いてはいけない。ため息を一つ吐く度に幸せが一つ離れていくと、母から教わった。なのに、 「はーぁ。」 漏れてしまう。涙も止まらない。まさに…途方に暮れている。 母が亡くなった直後なのだ。こんなこと、本当なら考えたくない。考えたくない…が。私が頼れる親戚は、新潟に居る母方の叔父夫婦のみ。従兄弟もいる。 「こっちに来ないか?」 そう言ってくれているが、私の現住所は東京だ。 保険金だ家のことだ、手続きもある。これからの生活だってある。くよくよしている時間も余裕も、正直、無いと言う状況である。 (就職…決まってるんだけどなぁ…どうしよう。) 無意識にまた溜め息を吐くと、骨壺をぎゅうっと抱きしめた。
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