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「彩人。」
「はい。」
「追ってやれ。」
「風磨様が追って差し上げなくて宜しいのですか?」
「…俺が行っても喜ばないよ、あいつは。」
「ですが「あいつの記憶力では、門まで辿り着けない。何処かで迷子になって泣いてるだろう。…慰めてやってくれ。」
「…かしこまりました。」
彩人は頭を下げると、部屋を出て行った。
***
「う~…。」
(何でこんなに広いの?来た道を戻ったはずなのに…。)
私は屋敷の中でさ迷い、右も左も分からなくなって走り疲れ。花でいっぱいの庭の隅で縮こまっていた。
(何で風磨くんは政略結婚(こんなこと)を、あっさり受け入れられるの?私と話したことないじゃない。顔だって、さっき初めて見たようなもんじゃない。)
「ヒック…。」
膝を抱えて涙を零す。
「透子様。」
すると、優しい、彩人さんの声が聞こえてきて顔を上げる。その人は、傍らで腰を屈めて佇み。スッと、ハンカチとポケットティッシュを差し出してくれた。
「あ、有り難う…御座います。」
美麗な男性の前で恥ずかしいが、私は鼻をかみ、ハンカチで涙を拭った。
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