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「………。」
何を話そうか?沈黙していると、彩人さんが私の隣りに座り、その落ち着いた声で話し出した。
「風磨様に、透子様を追いかけるように命じられました。きっと、迷子になって泣いているだろう、と。」
「………。」
「風磨様は、ぶっきらぼうに見えましたか?」
私は、黙って頷く。
「緊張されていたのですよ。風磨様は高校をご卒業されて、透子様に逢えるのをとても楽しみにしておられました。今朝も…透子様の身に不幸があったと知りながら、それでも貴女に逢えると、そわそわしていらっしゃいました。」
「………。」
想像が、追いつかない。私はただボーっと、流れてくる声を聞き、花の香りに浸っていた。目の前には…マーガレット、キンギョソウ、アザレア、それに苺もなっている。
私が知る花の名前は少ない。しかし前述にあげた以上の、たくさんの花が此処には咲いている。陽の光を浴びて、風を受け、まるで嬉しそうに、ゆらゆらと揺れていた。
「どうして?…どうして風磨くんは、私と結婚するの?お父さんの遺言だから?」
「勿論、それは否定しません。ですが透子様。風磨様は前総帥が亡くなられた後、突然その後をお継ぎになりました。慣れないことは多く、その若さ故、当然、非難の声もあります。それなのに何故、わざわざ高校へ通われていたと思いますか?」
「…学歴?」
「失礼ですが、学歴の為ならば、もっと名門校に進学されたのでは?」
(確かに…。)
「じゃあ、どうして?」
彩人さんの顔を見て訊ねると、彼は微笑んだ。
「透子様が、あの学校にいたからです。」
「………。」
「覚えていらっしゃいませんか?風磨様は一年生の五月に、遅れて入学されたのです。」
「…転入生はいました。でも、ごめんなさい。私、記憶力は良くなくて…風磨くんとも別に、仲良くなかったし。」
無意識に指先をモジモジさせて俯くと、語る声がまるで消え入るように、段々とそれは小さくなっていった。
「いいんですよ。風磨様は、それを気にするような方ではありません。」
彩人さんの優しい声が私に安堵をくれると同時に…ほんの僅かに、風磨くんに対して申し訳なさを感じさせた。私は、あまりにも周りに無関心過ぎたのかもしれない。
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