序章。

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そして右の曲がり角へ入ると、うちのアパートの前に引っ越し業者の車が停まっていた。 あと…何故かすぐ傍に、とてもお高そうな車が並んでいる。 車のことは詳しくないが、傷を一つでもつけようものなら、とんでもない額の慰謝料を請求されそうな…そんな佇まいをしている。 (どこのお家だろ?挨拶…来てないよね?) 右手で無理矢理、涙を拭い、アパートの入り口に足を踏み入れた。その時だ。 「透子(とうこ)様。」 「………。」 (…透子、“さま”?) 背後から声をかけられて振り向くと、そこにはスラリと背の高い、長めの襟足、艶のある黒髪が美しい男性が立っていた。 思わず見惚れてしまうほど、綺麗なお顔立ちをされている…が。格好が妙である。確か、燕尾服?と、言うものだったと思う。西洋の執事が着るものだ。 因みにここは、もう一度言う。東京だ。 (…気のせいだ。うん。) しかし、首を傾げて踵を返した私は驚愕し、目を見開いた。引っ越し業者さんが出入りしているのは、 「うち!?」 何故だ。叔父が既に、新潟へ来るように手配したのか?こんなにも早く?否、若しくは大家さんか?「家賃払えないんなら出ていけよ。」的な?いやいやいや、そんな急過ぎるでしょ!横暴だよ! 「え?え?ちょっ!ちょっと待って!」 一人の引っ越し業者さんに声をかけようと腕を伸ばした、その時。先ほどの燕尾服の男性が、するりと私の前に入ってきた。 「落ち着いてください、透子様。私(わたくし)がご説明致します。さあ、此方へ。」 男性の手が伸びる先には、先ほど見た高級車。 「………。」 (!、売られる!?) 咄嗟のことに頭がついていかず、思考が莫迦になった。私は、反射的に骨壺を抱いて逃げ去ろうとしたが、足を一歩…たった一歩だ。踏み出した瞬間に、燕尾服の男性に腕を掴まれた。そして、 「申し訳御座いません。失礼致します。」 「え?は!?はああああっ!?」 私は、それはそれは鮮やかに。男性にお姫様抱っこをされて。あっという間に高級車の中へ入れられて…あっという間に、その車は走り出した。
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