恋人の約束。

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燕尾服の男性。彩人(さいと)さんが言うにはこうだ。 私の母は、私が産まれる前。五ノ井(いつのい)グループと言う大手企業の、前総帥と想いあっていたらしい。しかし母は…言い方は悪いが一庶民。 周りの反対、母は嫌がらせも受け、二人が結ばれることはなかった。そこで、五ノ井の前総帥と母は約束したのだ。 若しも互いに子を授かり、その子供たちが男女ならば。その時は二人を結婚させよう…と。 そう、五年前に亡くなった前総帥の遺言状に書かれてあったそうだ。そして、跡を継いだ現総帥であるご子息は、五ノ井氏が亡くなる前に、このことを聞かされていたらしい。 「…漫画か?」 またしても、顔が無になる。一体、いつの時代の話をしているのだろうか?そんなことがまさか、現代で起こるわけがない。 「いやいや、ロマンチックではないですか。」 「え?彩人さん?信じてるんですか?こんな茶番話。」 「勿論です。遺言状を拝読させて頂きましたから。」 「じゃあ!若しこの話が本当だとして、現総帥は?納得してるんですか?親同士が勝手に決めた結婚ですよね?私のこと、何も知らないんですよね?」 「存じておられますよ。」 「は?」 「ご当主様は、透子様のことを存じておられます。」 「え?何でですか?」 「それに透子様も。ご当主様のことを存じておられますよ。」 「………。」 開いた、目と口が塞がらない。漫画やドラマじゃあるまいし、明治や大正時代じゃあるまいし。こんなこと、あるわけが無い。あって良いわけがない。 綺麗にことの成り行きを話しているだけで、こんなの、ただの政略結婚じゃないか。骨壺を抱きながら、その怒りが、モヤモヤがお腹の底から湧き出てきた時だ。 「着きましたよ、透子様。」
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