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ほんの一瞬の余韻に浸っていると、秋の隣の席がガタリと動いた。
「なに年寄りみたいな顔してんだ」
栗先生だった。
「いえ、肉があまりにも美味しくて……」
「肉ヤバイっすわ」
俺はチャーシュー、秋はカツ。二人して肉を口にいれた。
「肉ってお前ら……一括りにしやがって」栗先生は苦笑した。「肉がいいならこの唐揚げもいいぞ。どこよりも旨い」
「唐揚げ……絶対食べます」
俺は真顔で頷いた。
対して秋は少し遠くを見つめるようだった。「唐揚げか……」
「なんだ、家が恋しくなったか?」
歯を出してからかう先生に秋はぼーっとしたまま「違うんすけど」と言った。
「じゃあ何だ?」
軽く首を傾げる先生を見て、俺はにんまりと笑った。
「秋は最後に食べた彼女の料理思い出してるんですよ」
「はあ!? 千晴と付き合ってるわけねーだろ!?」
覚醒した秋は顔を真っ赤にして大声をあげた。
周りからじろりと睨まれ、小声で「すいませーん」と謝るっている間も顔の赤みは取れていない。
俺が「千晴なんて一言もいってないぞ?」と言うと、可哀想なくらいに秋の身体中真っ赤になる。
栗先生は新しいおもちゃを見つけたような目で挙動不審の秋を見ていた。
「へー、ふーん、千晴ちゃんねぇ?」
ニマニマと心底楽しそうな先生に秋はハッとしたような顔になった。しかし、もう遅い。
「へー、千晴ちゃん。千晴ちゃんねー……後でメモっとくな」
「やめてください!!」
秋の必死の声は全く効いていないらしく、先生は目を丸し口をすぼめて愉しそうにしている。
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