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大学の掲示板から踵を返したあきらは図書室にいた。
入り口のカウンターに司書の姿はない。
(あれ、黎明さん今日いないのかな。)
図書室の司書の整った顔立ちをおもいだす。その美貌から遠巻きにされている彼だが、存外に人懐っこい男性を周りの学生は大いに誤解していた。
少し司書の仕事に愛を持ちすぎ、のめり込んでいるところがたまに傷だが、間違いをしっかり怒ることができる彼のことをあきらも人生の先輩として慕っている。
彼と話すことと、本を読むことどちらともを暇潰しと期待していたあきらは少し不服だった。
(いないなら仕方ないし、本を読もうか。今日はどんなものを選ぼうか…)
期待の両方は果たされなさそうと判断したあきらは棚から一冊の文庫を抜き取り、図書室の隅の一角で読み進めた。
入り口から見えにくいその場所は人のいない静けさがありあきらは気に入っている。
宮沢賢治の銀河鉄道の夜をひらき読み進めていく。
読書も趣味の一貫であるあきらは慣れた手つきで本をめくり、文章をたどる。物語にのめり込むのは一瞬だ。
読み進めながらも、思案は続けられた。
(読書ぐらいだろ、時間潰す方法なんて)
あきらはひとり、心中にて愚痴をもらす。
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