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学生ホールは自販機や喫煙所も近く、いろいろな学科の生徒で賑わっていた。
なんとか時々飛んでくる鋭い視線をかわしながら講義をやり過ごしたあきらたちは学生ホールで一息ついていた。
二人で机に座り、飲み物をのんでいた。
自業自得なのはわかっているが、悪意にさらされているのは心底つかれた。
心の中だけでは収まらないような身体的な疲れまで感じるようだ。
それは志藤も同じようだった。
「あーなんか、つかれたなー」
「ぶっちゃけ、きつかった…」
あきらはこの後のバイトでも引きずることを予想して気分がおちる。
「悪意はダメなんだっけ?」
その突然の問いはあきらの体質を知っているからだった。
「何にも限らず自分に向けられてんのは全部だめ」
平凡な容姿に平凡な生活、そんなあきらには非凡な体質がある。それは親しいごく一部の同類にしか明かしたことはない。
「面倒な体質だなー。」
「暢気なもんだな、狐憑きの玉藻。」
体質に困っているあきらからみたらその他人事の適当な物言いはイラついた。
お礼に志藤の嫌いな渡り名を口にする。
彼も妙な体質があるが、あきらのものとは質がまた異なるものだった。
「ばっ!馬っ鹿!こんなとこでなんだよ。」
あまりこの名で呼ばれることを嫌う友人にわざといやがらせをする。
「誰も聞いてねーよ。さっきのお礼だよ。」
あきらのぶっきらぼうな物言いにイラついて、志藤も言い返されたものと気づく。
「すまねー。詫びにラーメンいかね?餃子奢るぜ。」
お詫びといいラーメンに誘ってくる志藤に軽口を返しつつ、あきらは立ち上がった。
「俺今からバイトなんだわ。また今度な!」
「確かにそんなら腹ふくれるな。今日はどっちなんだ?」
あきらは2つのバイトを掛け持ちしている。どちらも割りがいいし、拘束時間は自分の仕事ぶりで決まる。おまけに体質にもあっていた。
「今日は占いのほう!もういくわ。またな!」
もうそろそろ、仕事へ向かう時間だった。
「おー、ご苦労なことで!無理すんなよ。」
友人の励ましの言葉を背にうけつつ、あきらは走り出した。
早歩きで間に合いそうなのに、あきらはなんだか走りたくなってそのまま風をさいていった。
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