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 看板を目印にして歩いていたにもかかわらず、いつの間にか迷い込んでいた。 「あれ、おかしいぞ……」  登ってきた道を逆に下っていたはずなのに、気づけば地面は平坦になっていて、あるはずの道も見失っていた。  山田さんはすぐにおかしいとわかった。ふと余所見をすると、そこはもう森の中だったからだ。まるで、夢でも見ているような気分だったそうだ。 「これは……キツネやタヌキにでも化かされたかな?」 まだどこか余裕のあった山田さんは、辺りの様子をうかがいながら、苦笑いを浮かべていたという。  だが、すぐに笑えなくなった。 「あるものを見た……」 そう言うと、山田さんは言葉ではなく、手近にあった紙ナプキンに、アンケート用にと置かれてあった安っぽいペンを取り、ある絵を描いてくれた。 黒く塗り潰された人影のような形に、白い二つの眼のようなものがあるそれは、例えるならば、黒いテルテル坊主のようだった。 「必死になって逃げたよ」 ペンを元あった場所に戻しつつ、山田さんはまたぽつりと呟いた。 そして仕切り直すように、再びその出来事を話し始めた。 木々の間から現れたそのなにかを見たとき、山田さんは、直感的に逃げなければいけないと感じたそうだ。  気づけば走り出していたらしい。     
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