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2.廃墟
アメリカ合衆国
ミシガン州・デトロイト
2009年、自動車産業の大手であるゼネラルモーターズと、再開発を担っていた同業界・クライスラーの経営破綻により、街の経済は破綻状態に陥っていた。
近年においてこそ同業界であるフォードを含め、再建されたゼネラルモーターズとクライスラーの業績回復は望めてはいたが、一度落ちたデトロイトの経済を立て直すには及ばず、貧困層から連なった治安の悪化により、職を求めた多くのヒスパニック系アメリカ人はデトロイトを離れていった。
そうして、デトロイトを埋め尽くす廃墟群は生まれていった。
倒壊の危険があるにもかかわらず放置されているビルや商業施設。投げ捨てられた家屋は数万棟にも達し、まさに世紀末の様相をていしたその大空の片隅で、ひとひらの光は瞬いた。
流れ落ちた影は目標の反応を確認すると、下方にある建物へとゲートを開く。そうして再び現れたのは光の乏しい階層の一角だった。
足先から静かに降り立つ…
背には純白の翼を成し、あまりの潔白さにその薄明でさえ輝いて見えた。
すでに自身の存在は感知されているはずだが、微動だにしない反応に一瞬眺めるように立ち尽くした。
侵食していた雨漏りにより空気は淀んでいる。通路まで倒れ込んでいたマネキンの脇を抜け、崩れ落ちた天井の瓦礫を踏み越えていく。姿勢制御に広げられていた翼は既に小さく畳まれ、その内なる白面の素顔は地上世界での感覚に顰まっていたが、長居する気などないと口端は噤んでいた。
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