ルームシェア

　住所も電話番号も名乗っていた名前さえが総てデタラメ。ただ、サークル内で撮った写真が残っていたおかげで、本名と、友達を知っているらしい人の特定だけはできた。だが、どうにか連絡を取ることのできた知人の方の話によれば、俺とルームシェアをしていたあの友達は、五年も前に亡くなっているとのことだった。
　五年前にこの世を去った人間が、どうして趣味の集まりに姿を現し、生きている人間とルームシェアなどしようと思ったのか。
　友達の行動は謎だらけだ。でも知人の方り話で、あいつが俺に同居を持ちかけた理由はおぼろに判明した。
　友達の死因は交通事故だったが、亡くなる少し前に結婚が決まり、新居に選んだのがあの物件だったのだ。でも友達がなくなったことで引っ越しの話は流れ、婚約者の人のその後も判らないという。
　多分、物件を見に行ったんだろうな。あの部屋での新婚生活を夢いっぱいに語っていたんだろうな。その未練が巡り巡って、もうこの際男同士のルームシェアでもいいからと、こういう形で落ち着いたのか。
　なんともやるせない話だな。
　でも、悪いけど、俺はあの部屋から引っ越させてもらうよ。
　それを引き起こしているのが意気投合した相手だとしても奇怪な現象は怖いし、何より、あいつが結婚相手と新婚生活を送る筈だった部屋には居づらいからな。
　あの部屋に愛着があるのは理解したけど、仕事の都合とかで早々に転勤が決まり、引っ越しせざるを得なくなったと思って、あの部屋のことは諦めてくれ。

ルームシェア…完