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僕がそう言うと、彼女はラミネートして張り出されている犬の紹介文を覗き込んだ。そして直ぐ様「んー、でもさ」と、少し不満そうな声を上げて、紹介文を指差す。
「睾丸が一個、お腹の中に入って出てきてないって。それと、生まれながらにしてヘルニアを患ってるみたい」
彼女の言葉を聞き、僕もその紹介文を見つめる。確かに彼女が言った通りの情報と、それに付け加えて「病気になる可能性 高」という一文が、書かれていた。
「動物って保険あるけど、それでも医療費が高くつくらしいよ。手術するにも人間よりかかるって、友達から聞いた。最初から病弱だって分かってる子を飼えるほど、余裕無いよ」
……たしかに、彼女の言う通りである。僕達に経済的余裕は無い。そもそも犬を飼うという事さえ、かなりの冒険なのだ。犬が病気になった時の医療費が理由で僕達が餓死してしまっては、元も子もない。
しかし、その情報を知ってしまうと、どうしてだろう。無性にダックスフントの事が、愛おしく感じてしまった。
つぶらな瞳でどこか一点を見つめ、大人しく座っているその様が、なんだかとても、胸を締め付ける。
「でも、この子可愛いよ」
「可愛いけど、その後のリスクが大きいよ。もし病気になって、その時に私達に余裕が無くて、病院につれていけなかったら、それこそ可哀想でしょ?」
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