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もう何度目か分からない溜息が、長く長く落ちた。
「…使い古された常套句を並べるより、
心からの言葉を素直に口にした方が伝わるさ。
そんなに素敵な女性なら僕もお目にかかりたいもんだが、
お前の惚れやすさには一種の自己強迫性を感じるな」
勝手知ったるなんとやらで、
こちらの控え室のコンロを使い
さっさと二人分のコーヒーを入れ始める久助を横目に、
受け取ったばかりの捜査協力費が入った茶封筒を
無造作に引き出しへ放り込む。
そのまま自身の座り慣れた椅子に腰を落ち着け、
友人の頻発させる好いた腫れたの話より余程興味深い、
新たな事件資料に目を落とした。
ありがちな痴情に起きた話だと進めていた事件が、
容疑者を絞り込み切れずにいるらしい。
発生から早三日。
一見、性的な目的に使用するホテルで起こった
よくある死体遺棄事件。
日常茶飯事のそれは、
どんな内実を抱えていようが他人事、の警察処理で
大方が『病死』で処理される。
死因もいわゆる心臓麻痺で、
意図的に殺害された現場ではなかろう、
というのが当初の見立てだった。
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